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名古屋地方裁判所 昭和47年(ワ)2977号 判決

甲号事件原告・乙号事件被告

兼松敏広

甲号事件原告

山崎孝彦

ほか一名

甲号事件被告

小嶋哲

甲号事件被告・乙号事件原告

内藤直樹

主文

一  甲号事件被告らは各自、甲号事件原告兼松敏広に対し金八万一、一二二円および内金七万三、一二二円に対する昭和四六年八月一日から、内金八、〇〇〇円に対する本判決言渡の日の翌日から各支払済に至るまで年五分の割合による金員を、甲号事件原告山崎孝彦に対し金六四万七、三二八円および内金五八万七、三二八円に対する昭和四六年八月一日から、内金六万円に対する本判決言渡の日の翌日から各支払済に至るまで年五分の割合による金員を、甲号事件原告名倉文夫に対し金四一万四、八六〇円および内金三七万四、八六〇円に対する昭和四六年八月一日から、内金四万円に対する本判決言渡の日の翌日から各支払済に至るまで年五分の割合による各金員を支払え。

二  甲号事件原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  乙号事件被告は、乙号事件原告に対し、金一一九万八、四五三円および右金員に対する昭和四六年八月一日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

四  乙号事件原告のその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用は甲号事件、乙号事件を通じ、乙号事件についてのみ生じた費用はこれを三分し、その一を乙号事件原告の、その二を乙号事件被告の負担とし、その余の費用はこれを二分し、その一を甲号事件原告兼乙号事件被告兼松敏広、甲号事件原告山崎孝彦、同名倉文夫の、その一を甲号事件被告兼乙号事件原告内藤直樹、甲号事件被告小嶋哲の負担とし、補助参加によつて生じた費用は補助参加人の負担とする。

六  この判決主文第一項、第三項は仮に執行することができる。

事実

(甲号事件)

第一申立

一  原告ら(請求の趣旨)

1 被告らは各自、原告兼松敏広に対し金九〇万三、四八二円、同山崎孝彦に対し金八七万三、五二八円、同名倉文夫に対し金六四万一、〇九一円および右各金員に対する昭和四六年八月一日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言を求める。

二  被告ら(請求の趣旨に対する答弁)

1 原告らの請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決を求める。

第二主張

一  原告ら(請求の原因)

1 事故の発生

原告らは左記交通事故によつて損害を蒙つた。

(1) 日時 昭和四六年八月一日午後一〇時五〇分ごろ

(2) 場所 岐阜県養老郡養老町橋爪地内、名神高速道路上り線上

(3) 事故の態様 右日時場所において、原告兼松敏広(以下原告兼松という)が普通乗用自動車(ダツトサンサニー一〇〇〇、名古屋五一る四八三一号―以下第一車両という―)の助手席に原告山崎孝彦(以下山崎という)、後部座席に原告名倉文夫(以下原告名倉という)を同乗させて時速約七〇キロメートルで走行中突然ボンネツトが開き前方の見通しが全くきかない状態となつたため追越車線上に停車したところおりから後方から同方向に進行して来た被告小嶋哲(以下被告小嶋という)運転にかかる普通乗用自動車(三河五や一四一三号―以下第二車両という―)が追突した。

2 被告らの責任

右事故は、被告小嶋の前方不注視、車間距離不適当の過失により生じたものであるから、同人は民法七〇九条により、また被告内藤直樹(以下被告内藤という)は右第二車両の運行供用者でかつ被告小嶋を雇用し、被告小嶋は本件事故時に被告内藤の業務を執行していたのであるから自賠法三条、民法七一五条により、それぞれ原告らの蒙つた次項以下の損害を賠償する義務がある。

3 被害の状況

(1) 原告兼松について

本件事故により同原告は頭部挫創打撲傷等の傷害を負い、

(イ) 事故の日から昭和四六年九月六日まで三七日間馬淵病院に入院治療

(ロ) 同年九月六日から同年一〇月四日まで二九日間日比野外科病院に入院治療

(ハ) 同年一〇月五日から昭和四七年三月三〇日まで同病院において通院治療(実日数八八日)

(ニ) 昭和四六年九月二七日から同年一〇月二五日まで安藤歯科医院において通院治療(実日数八日)

をうけた。

(2) 原告山崎について

同原告は本件事故により、頭部外傷頸部挫傷等の傷害を負い、

(イ) 事故の日から昭和四六年九月六日まで三七日間馬淵病院に入院治療

(ロ) 同年九月六日から一〇月一三日まで三八日間日比野外科病院に入院治療

(ハ) 同年一〇月一四日から一一月一〇日まで同病院で通院治療(実日数八日)

をうけた。

(3) 原告名倉について

同原告は本件事故により、頭部外傷等の傷害を負い

(イ) 事故の日から昭和四六年九月六日まで三七日間馬淵病院に入院治療

(ロ) 同年九月六日から同年九月一五日まで一〇日間日比野外科病院において入院治療

(ハ) 同年九月一六日から同年一〇月一八日まで同病院において通院治療(実日数一〇日)

をうけた。

4 損害

右の結果、原告らは左のとおり損害を蒙つた。

(1) 原告兼松 金九〇万三、四八二円

(イ) 治療費 金一万七、六四〇円

(a) 日比野外科病院 金二、四四〇円

(b) 安藤歯科医院 金一万五、二〇〇円

(ロ) 付添看護費 金三万七、二〇〇円

一日一、二〇〇円×三一日=三万七、二〇〇円

(ハ) 休業による損害 金一六万八、六四二円

右原告は事故当時リンナイ株式会社に勤務していたものであるが本件事故による受傷により事故の日から同年一〇月二〇日まで八一日間の欠勤を余儀なくされた。

右の結果、同原告の休業によつて失なつた収入は

一九万一、六一三円(過去三ケ月の収入合計)÷九二日(同期間の日数)=二、〇八二円

二、〇八二円(過去三ケ月の平均日給)×八一日(欠勤日数)=一六万八、六四二円

である。

(ニ) 慰藉料 金六〇万円

(ホ) 弁護士費用 金八万円

右原告は本件訴訟の提起を東合同法律事務所所属の三名の弁護士に依頼し、本訴請求額の一〇%(一万円未満四捨五入、以下同じ)を右弁護士らに支払うことを約束した。

(ヘ) 車両の破損による損害金三八万九、七八二円

原告兼松が本件事故当時乗車していた車両(ダツトサンサニー一、〇〇〇名古屋五一る四八三一号)は、同原告が昭和四五年八月三一日金四七万円で購入したものであるが、本件事故により大破したため、スクラツプとして事故直後金一万円で売却したものである。

ところで、事故当時の右車両の価額は同車の耐用年数を自家用自動車であるから六年(「減価償却資産の耐用年数等に関する省令(昭和四〇・三・三一大蔵省令一五号)別表第一」による)として計算すると次のようになる。

(1) 減価償却額金七万〇、二一八円

取得価額四七万円×(一―10/100)×〇・一六六×経過年数一年

(2) 事故当時の価額金三八万九、七八二円

購入価額四七万円―(減価償却額七〇、二一八円((1)の額)+売却額一万円)

(ト) よつて、原告兼松の損害金の合計額は、右車両損害を加えると金一二九万三、二六四円となるが、とりあえず内金九〇万三、四八二円の支払を求めるものである。

(2) 原告山崎 金八七万三、五二八円

(イ) 治療費 金二、五〇〇円(日比野外科病院分)

(ロ) 付添看護費 金三万七、二〇〇円

内容は(1)の(ロ)に同じ

(ハ) 休業による損害 金二五万三、八二八円

右原告は事故当時リンナイ株式会社に勤務していたものであり、本件事故による受傷により、事故の日から昭和四六年一〇月三一日まで九二日間の欠勤を余儀なくされた。

右の結果、同原告の休業によつて失なつた収入は、二五万三、八八一円(過去三ケ月の収入合計)÷九二日(同期間の日数)=二、七五九円

二、七五九円(過去三ケ月の平均日給)×九二日(欠勤日数)=二五万三、八二八円

である。

(ニ) 慰藉料 金五〇万円

(ホ) 弁護士費用 金八万円

内容は(1)の(ホ)に同じ

(3) 原告名倉 金六四万一、〇九一円

(イ) 治療費 金一、三〇〇円(日比野外科病院)

(ロ) 付添看護費 金三万七、二〇〇円

内容は(1)の(ロ)に同じ

(ハ) 休業による損害 金一四万二、五九一円

右原告は事故当時リンナイ株式会社に勤務していたものであり、本件事故による受傷により、事故の日から昭和四六年一〇月二〇日まで八一日間の欠勤を余儀なくされた。

右の結果、同原告の休業によつて失なつた収入は、一六万一、九五六円(過去三ケ月の収入合計)÷九二日(同期間の日数)=一、七六〇円

一、七六〇円(過去三ケ月の平均日給)×八一日(欠勤日数)=一四万二、五九一円

である。

(ニ) 慰藉料 金四〇万円

(ホ) 弁護士費用 金六万円

内は(1)の(ホ)に同じ

5 結論

よつて被告らに対し、

原告兼松は金九〇万三、四八二円

原告山崎は金八七万三、五二八円

原告名倉は金六四万一、〇九一円

及び右金員に対する本件事故の日から支払済まで年五分の割合による金員の支払を求める。

一  被告ら(請求の原因に対する答弁および被告らの主張)

1 請求原因第一項(1)(2)の事実は認める。(3)の事実のうち衝突の事実のみ認め、その余の事実は否認する。

2 同第二項中、被告内藤が第二車両の運行供用者で、被告小嶋を雇用し、被告内藤の業務執行中に本件事故が発生した事実は認め、その余の事実は否認する。

3 同第三項の事実は不知。

4 免責および過失相殺の主張

本件事故は原告兼松が点検、整備不十分なため、ボンネツトが故障した第一車両を運転して、高速道路の追越車線を高速度で運転を続けしかも突然急停車した重過失に起因するもので、被告小嶋としては不可抗力に近い状況であつて、仮に過失があつたとしても極めて軽微なもので過失相殺を主張する。

三  補助参加人の主張

1 免責および過失相殺の主張

本件事故の最大の原因は高速道路の追越車線に自動車が停止していたという全く予想出来ない事態が生じたことにあり、その原因はまず原告兼松のボンネツトの閉め方が不完全であつたことと、走行中ボンネツトが開いた場合に自車を停止させるについて、路肩寄りに進路を変える等の事後の安全措置をとらなかつたことにある。

被告小嶋としては、自車の前に一台の車があり、前車が第一車両を避けて走行車線に危く難を免れたその直前に停止中の第一車両を発見したときは、もはや急ブレーキをかけても間に合わない状態であつた。

本件第二車両に構造上の欠陥も、機能上の障害もなかつた。

従つて被告小嶋、内藤らは自賠法三条但書の免責事由を充足するので、被告らに責任はない。仮に被告らに何等かの過失ありとしても、原告兼松に過失があるので過失相殺の主張をする。

さらに、原告山崎、同名倉についても、同兼松と共に同じ会社の同僚であつて本件事故に際しても終始同兼松と行動を共にしていること、本件事故の日の前日夜自宅付近を出発して若狭湾まで車を運転して行き(目的地へは翌日―本件事故の日―の午前四時頃到着)、一日海水浴をしてその日の午後五時頃帰途についたがその間約三時間程野宿の様にして睡眠したに過ぎず、極めて疲労していて運転すべき状態でないのに原告兼松に運転(それも長距離の)を委ねそれに同乗していたこと等からすると、原告兼松以外の原告らに付いても兼松に劣らない重大な過失があつたというべきであり、原告らを一団として被害者側(この場合「被害者」という言葉は適切でないが、過失相殺を主張する立場上一応通常使われている用語を用いることゝする)の過失と考えることも出来よう。

2 権利濫用の主張

(1) 原告兼松に関する前記の過失のほか、被告小嶋にも過失が認められ、従つて被告内藤も損害賠償責任があるとするなら、兼松と小嶋、内藤らは山崎、名倉に対する関係で共同不法行為責任を負うことゝなる。

(2) そして、共同不法行為者(及び運行供用者)はその責任に付き不真正連帯の関係に立つとされている。

(3) 然し、原告らの側に前記の様な関係と重大な不注意がある場合にまで、全員に付き不真正連帯責任があるからとして自己の側でない相手側一方に対してのみ全部の請求を認めることが果して妥当であろうか。

(4) なるほど共同不法行為者の一方が自己の過失割合を超えて賠償した場合、その者は他方の共同不法行為者に対して超過分を求償することが出来ることになつているが、共同不法行為者が互に原告と被告としてし烈に対立している関係にある本件の様な場合に、果して求償によつて円満にその支払が実現されるかどうかは極めて疑わしい。

むしろ判決によつて原告兼松と被告小嶋の過失割合が認定されれば、原告兼松と同山崎、名倉間ではその責任割合に応じた賠償がスムーズに行われる可能性の方が、原告らの関係からするとはるかに高い。

(5) 共同不法行為者の被害者に対する不真正連帯責任は、あくまでも被害者保護を第一とするものであり、共同不法行為者の側と被害者の側とに特別の関係がなく、共同不法行為者間で責任割合(過失割合)が認定されてもそのどちからもスムーズな支払を得ることが期待できない様な場合等にこそその機能を十分に発揮するのであり、それを以つて足りるのではなかろうか。

(6) 繰り返すが、原告らには前述の様な親密な、そして共に非難さるべき関係の存する本件に於て、運転者を除く原告らがその運転者(兼松)の責任を一切間うことなく、相手方にのみその責任限度を超えて賠償を求める本訴請求は信義に悖るばかりでなく、権利の濫用として厳に戒しめられるべきである。

3 損害填補の主張

原告らは、治療費に付き、自賠責保険より次の通り支払を受けている。

(1) 原告兼松 合計金三七万六、〇四一円

(内訳)〈1〉馬淵病院の分金二四万二、七二〇円〈2〉治療費を支出した社会保険の求償に対し金一三万三、三二一円

(2) 原告山崎 合計金三一万九、四七三円

(内訳)〈1〉 同金二一万〇、八一〇円

〈2〉 同金一〇万八、六六三円

(3) 原告名倉 合計金二六万七、八四〇円

(内訳)〈1〉 同金二四万六、四〇〇円

〈2〉 同金 二万一、四四〇円

四  原告ら(被告らの主張に対する答弁)

1 被告らおよび補助参加人の免責、過失相殺の主張事実は否認する。補助参加人の主張は、とりもなおさず刑事事件の第二審判決の見解に外ならないものであるが、右の見解は高速道路を走行中に突然ボンネツトが開き、その方向の見通しが全くきかない状態となつたときに、通常の運転手に要求できる事故回避義務を著るしく超えたものである。

また前車が避け得たにもかかわらず、被告車両が避け得なかつたこと自体、車間距離不適当の状態であつたことを如実に証明するものであり、被告の過失は明らかである。権利濫用の主張は争う。

2 損害填補の主張事実はすべて認める。

(乙号事件)

第一申立

一  原告(請求の趣旨)

1 被告は原告に対し金四四五万三、五八六円および右金員に対する昭和四六年八月一日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言を求める。

二  被告(請求の趣旨に対する答弁)

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

第二主張

一  原告(請求の原因)

1 交通事故の発生

原告は甲号事件請求原因第一項(1)(2)の日時場所において、甲号事件被告小嶋哲運転の第二車両に同乗中、被告運転の第一車両に追突し、原告は入院七二日、通院八二日を要する顔面挫創、両腿部挫創、頸部挫創等の傷害を受けた。

2 責任原因

右事故は、被告がボンネツトを確実に閉めたか否か点検不十分のまま、高速道路の追越車線を高速度で走行中、突然急停止し、後続車に追突等の危険を知らせる何等の措置をとらなかつた被告の過失に起因するものであるから、被告は民法七〇九条によつて原告の後記損害を賠償する義務がある。

3 損害

(1) 治療費 金二一万一、六九二円(自賠責保険金五〇万円を除く)

(2) 付添看護費 金三万九、六〇〇円

(3) 入院雑費 金二万五、五九四円

(4) 休業損害 金一六〇万一、四〇〇円

原告は税理士であるが、前記入通院期間中一二〇日休業し、一日平均一万三、三四五円の収入があつたので休業損害は頭書金額となる。

(5) 慰藉料

原告は治療期間中、多忙な業務を放棄し、得意先の業務に支障を生ぜしめて信用を失墜し、今日においても顔面に多数の切創痕を有し、左肩痛、頭痛、頸重感等の断続する後遺症があり、その精神的損害は甚大である。

(6) 車両損害 金五七万五、三〇〇円

二  被告(請求の原因に対する答弁および被告の主張)

1 請求原因第一項の事実は認める。

2 同第二項の事実は否認する。

3 同第三項の事実は不知

4 被告の主張

甲号事件原告として主張したとおり、本件事故はもつぱら甲号事件被告小嶋の前方不注意によつて生じたもので、被告に過失はなく、仮に被告に責任があるとしても、過失相殺を主張する。

(甲号事件、乙号事件共通)

第一証拠関係〔略〕

理由

(甲号事件について)

一  本件交通事故が原告主張の日時、場所において発生し、原告兼松運転の第一車両に被告小嶋運転の第二車両が追突した事実は当事者間に争いがない。

〔証拠略〕を総合すると本件事故の状況は次のとおりであると認められる。本件事故発生現場は名神高速道路上り線三八一・二キロポスト付近で、走行車線(幅員二・六メートル)と追越車線(幅員約三メートル)に区分され、そのほか約二・七メートルの上り線路肩部分があり、右現場付近は直線、平坦で見通しはよく、速度制限一〇〇キロメートルと指定され、事故当時路面は乾燥していた。原告兼松は、普通乗用自動車(第一車両)を運転し、会社の同僚である原告名倉、同山崎らと福井県方面に海水浴に行き、名古屋方面へ帰途、名神高速道路上り線に入り本件事故現場より数百メートル手前の養老サービスエリアで休憩し、その際原告兼松はエンジンを冷やすためボンネツトを開け、同エリヤ出発の際、再び閉めたが完全に閉まつたか否か確認しないまま、助手席に原告山崎、後部席に原告名倉を乗せて出発し、本線車道の走行車線に入つて約二五〇メートル進んだところで、時速約七〇キロメートル程度に加速し、前方走行車線にやや速度の遅い小型トラツクが走行中であつたため、追越車線に入ろうと右にハンドルを切つたところ、突然前記ボンネツトが開き、垂直状態になつたため、まつたく前方の見通しができず、かつ風圧でハンドルをとられそうになつたため、原告兼松は急ブレーキをかけることは危険と考え、二、三回にわけてブレーキをかけ、右にハンドルをとられながら追越車線上に入つておおむね追越車線と走行車線を区分する線に自車左側面が添う形で停止し、原告兼松は停止を明示しようと四輪フラツシヤーランプを点灯した。その後ただちに後方を確認したところ追越車線の後車は見えなかつたので、助手席に乗車していた原告山崎が降りて、二、三回ボンネツトを閉めようとしたが、閉まらず、そのためさらに原告兼松が降りて、一分間ぐらいボンネツトを二回ほどたたいて閉めようとし、交代した原告山崎は後車に危険を知らせる赤色信号灯を車内から取り出そうとし、そのとき追越車線上の後車が一台接近し、急ハンドルを切つて右停止車両を避けて走行車線に逃げ、その直後、右車両に追従していた被告小嶋運転の第二車両がその右前部を第一車両左後部に激突させたものである。

他方被告小嶋は被告内藤を助手席に外一名を後部席に同乗させて第二車両を運転し、本件事故現場に時速約八〇キロメートルで追越車線を進行してさしかかり、前車との車間距離を八〇メートル位保つていたところ、前車のブレーキランプが点灯するのを発見したが、当日が日曜日で走行車線が約一〇〇メートル間隔位に車両が通行する高速道路としては渋滞状態であつたため、前車も単に渋滞で減速したにすぎないと考え、単にエンジンブレーキを使用し、やや減速し時速約六〇キロメートル位としたのみでそのまま追従したところ、急速に前車との車間距離が短かくなつて、約二〇メートル前後となつたためあわててブレーキを踏んだところ、前車はさらに前記の如く急に左ハンドルを切つて走行車線に入つたのを発見、同時に追越車線上に、それまで前車の陰となつていた第一車両を発見し、ただちに急ブレーキをかけ左にハンドルを切つたが間に合わず前記の如く衝突したものである。

以上の認定を特に覆えすに足りる証拠はない。

以上認定した事実によれば、本件事故は、原告兼松がまずボンネツトが確実に閉まつているか否か確認を十分行なわず、漫然と高速道路に入つて運転した過失と、ボンネツトが開いてから右寄りにハンドルをとられて追越車線上に停止した場合にも、高速道路上では通常の車両の速度(八〇キロないし一〇〇キロメートル)からみて前記フラツシヤーランプ等は、本来緊急を示すものでもなく、その光も弱く有効性が少ないこと(フラツシヤーランプを現認してから停止措置をとつても衝突が避けられるか否か疑問が存する)に鑑み、ただちに後車に危険を知らせる措置(赤色信号灯を持つて一〇〇メートル以上後方に走つて、その位置で危険を知らせる。)をとるか、または走行車線の状況を見て、車両を路肩に寄せることが可能か否かをただちに検討することが重要であり、しかも前記認定事実によれば停止してから衝突まで約二分程度の余裕があり、その間後続車がなく、前記赤包灯を持つて知らせる措置もただちに行なえば可能であつたと考えられ、かつ走行車線上の前記車両の走行状況もただちに第一車両を路肩に寄せることが不可能と断定すべき状況でもなく(また高速道路上では対向車は予測されないから路肩に寄せるについては特に左後方の確認が重要であつて、前記ボンネツトの状態でも路肩に寄るまでの運転について特に支障があるとは考えられない。)右いずれかの可能な措置をとることなく、高速道路上の特に追越車線における追突の危険を軽視し、後続車がただちに見えないことに気を許し、前記フラツシヤーランプを点灯したのみで、もつぱらボンネツトを閉めることに気を奪われた原告兼松の過失を主たる原因とし、前車に追従するに際し、前車がブレーキをかけたにもかかわらず、単なるわずかな減速と軽信して、ブレーキを使用せず、急激に車間距離をつめてしまい、前車の陰となつていた第一車両を発見した時には速度の関係で衝突を免れない状態としてしまつた原告小嶋の過失を従たる原因として発生したものというべきであり、両者の過失割合は原告兼松六割五分、被告小嶋三割五分と解すべきである。

従つて被告小嶋の無過失を前提とする被告らおよび補助参加人の免責の主張は理由がない。

さらに本件事故はその態様からみて運転者の過労に直接的に起因するものとは考えられず、原告山崎、同名倉にも、過労状態の原告兼松に運転を委ねた過失ありとする補助参加人の主張は失当である。

また補助参加人の権利濫用の主張も、同乗者らに運転者たる原告兼松と同様に非難されるべき点が存するとの前提に立つた立論であつて、右前提自体失当であつて右所論は採用できない。

二  責任原因

被告小嶋には前記のとおり過失があり、また被告内藤が被告小嶋の雇用主で、被告内藤の業務執行中に本件事故が発生し、また被告内藤が本件第二車両の運行供用者であることは当事者間に争いがないので、被告小嶋は民法七〇九条により、同内藤は民法七一五条、自賠法三条により原告らの後記損害を賠償する義務がある。

三  損害

1  原告兼松関係

(1) 治療費 金三九万三、六八一円

〔証拠略〕を総合すると、原告兼松は本件事故の結果、頭部挫創、打撲傷、右腓骨々頭骨折等の傷害を負い、ただちに大垣市内馬淵病院に入院し、同年九月六日まで三七日間入院治療を受け、その間三一日間付添看護を要し、同年九月六日江南市日比野外科病院に転入院し、同病院に同年一〇月四日まで二九日間入院し、退院後昭和四七年三月三〇日まで同病院に通院し(実日数八八日)、また昭和四六年九月二七日から同年一〇月二五日までの間本件事故による歯冠破折等の歯科治療のため江南市安藤歯科医院に通院し(実日数八日)、治療打切後は特に顕著な後遺症は残らなかつたこと、その間の治療費総額は金三九万三、六八一円(日比野外科分二、四四〇円、安藤歯科分一万五、二〇〇円、その他自賠費支払分三七万六、〇四一円)であることがそれぞれ認められる。

(2) 付添看護費 金三万一、〇〇〇円

〔証拠略〕を総合すると、前記要付添期間中、近親者が付添つたものと認められ、本件事故当時、近親者の付添費用として一日あたり金一、〇〇〇円を要したことは公知であるから、原告兼松は三一日間に金三万一、〇〇〇円の損害を蒙つたこととなる。

(3) 休業損害 金一六万八、六四二円

〔証拠略〕によれば、原告兼松は訴外リンナイ株式会社に組立工として勤務し、その給与は日給月給制で事故前三ケ月平均の日収(暦日)は金二、〇八二円であり、本件事故による治療のため八一日間(暦日)休業したことが認められる。従つて原告兼松は金一六万八、六四二円の休業損害を蒙つたこととなる。

(4) 慰藉料 金四五万円

前記事故の態様(但し後記過失相殺の点を除く)、原告兼松の傷害の部位、程度等諸般の事情を総合すると本件事故による原告兼松の精神的苦痛を慰謝するには金四五万円が相当である。

(5) 車両損 金二四万円

〔証拠略〕によれば本件第一車両(ニツサンサニー一、〇〇〇cc)は原告兼松が昭和四五年八月三一日登録経費を含め金四七万円で新車として購入したもので、事故時までの走行距離は約八、〇〇〇キロメートルであつたところ、前部のラジエターグリルを原告兼松が改造したため、通常の同程度の車両より低い金二五万円の市場価格であつたが、本件事故でほぼ全損状態となり、金一万円の下取り価格でスクラツプとされたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

従つて原告兼松は金二四万円の車両損を蒙つたこととなる。

(6) 過失相殺および損害の填補

以上の損害金合計は金一二八万三、三二三円となるところ、原告兼松には前記の過失があることは明らかであるから、その過失割合分六割五分を減殺すると被告らの賠償すべき金額は金四四万九、一六三円となるが、自賠責保険金から合計金三七万六、〇四一円が填補されていることは当事者間に争いがないので右金額を控除すると残額は金七万三、一二二円となる。

(7) 弁護士費用 金八、〇〇〇円

本件訴訟の難易、訴訟の経過、前記認容額等を総合すると、本件事故と相当因果関係ある弁護士費用として原告兼松に金八、〇〇〇円を認容する。

2  原告山崎関係

(1) 治療費 金三二万一、九七三円

〔証拠略〕によれば原告山崎は頭部、頸部挫傷等の傷害を受け、ただちに前記馬淵病院に入院し、同年九月六日まで三七日間同病院で入院治療を受け、その間三一日間にわたつて付添を要し、同年九月六日、前記日比野外科に転入院し同年一〇月一三日退院し(入院日数三八日)、同年一一月一〇日まで同病院に通院し(実日数八日)、特に顕著な後遺症を残すことなく治療を打切つたもので、その間の治療費総額は金三二万一、九七三円(日比野外科分金二、五〇〇円、自賠費支払分金三一万九、四七三円)となることが認められる。

(2) 付添看護費 金三万一、〇〇〇円

〔証拠略〕によれば、原告兼松と同様の理由により、原告山崎は付添看護費として金三万一、〇〇〇円の損害を蒙つたことが認められる。

(3) 休業損害 金二五万三、八二八円

〔証拠略〕によれば、原告山崎は訴外リンナイ株式会社に組立工として勤務し、その給与は日給月給制で、事故前三ケ月の平均日収(暦日)は金二、七五九円であつたところ、本件事故により合計九二日休業せざるを得ず、従つて金二五万三、八二八円の休業損害を蒙つた事実が認められる。

(4) 慰藉料 金三〇万円

本件事故の態様、原告山崎の傷害の部位、程度等諸般の事情を考慮すると、原告山崎が本件事故によつて受けた精神的苦痛を慰謝するには金三〇万円が相当である。

(5) 損害の填補

以上の損害金合計は金九〇万六、八〇一円となるところ、自賠責保険金から金三一万九、四七三円が填補されていることは当事者間に争いがないので右金額を控除すると残額は金五八万七、三二八円となる。

(6) 弁護士費用

原告兼松と同様の理由により弁護士費用として金六万円を認容する。

3  原告名倉関係

(1) 治療費 金二六万九、一四〇円

〔証拠略〕を総合すると、原告名倉は本件事故により頭部打撲切創、左足部打撲切創等の傷害を受け、ただちに前記馬淵病院に入院し、同年九月六日まで三七日間入院治療を受け、その間三一日間付添看護を要し、同年九月六日前記日比野病院に転入院し、同病院に同年九月一五日まで一〇日間入院し、その後同年一〇月一八日まで同病院に通院し(実日数一〇日)、特に顕著な後遺症を残すことなく治療を打切つたもので、その間の治療費総額は金二六万九、一四〇円(日比野外科分金一、三〇〇円、自賠責支払分金二六万七、八四〇円)となることが認められる。

(2) 付添看護費 金三万一、〇〇〇円

前記認定の原告名倉の要付添期間、〔証拠略〕によれば原告兼松と同様の理由により、原告名倉は付添看護費として金三万一、〇〇〇円の損害を蒙つたこととなる。

(3) 休業損害 金一四万二、五六〇円

〔証拠略〕によれば、原告名倉は訴外リンナイ株式会社に組立工として勤務し、その給与は日給月給制で事故前三ケ月の平均日収(暦日)は金一、七六〇円で、本件事故のため八一日(暦日)休業せざるを得ずそのため金一四万二、五六〇円の休業損害を受けた事実が認められる。

(4) 慰藉料 金二〇万円

本件事故の態様、原告名倉の受けた傷害の部位、程度等諸般の事情を総合すると原告名倉の受けた精神的苦痛を慰謝するには金二〇万円が相当である。

(5) 損害の填補

以上の損害金合計は金六四万二、七〇〇円となるところ自賠責保険金より金二六万七、八四〇円が支払われていることは当事者間に争いがないので右金額を控除すると残額は金三七万四、八六〇円となる。

(6) 弁護士費用 金四万円

原告兼松と同様の理由により弁護士費用として金四万円を認容する。

(乙号事件について)

一  本件事故の態様は甲号事件一で認定したとおりで、被告兼松に前記過失があることは明らかであるから、被告兼松は民法七〇九条により原告内藤の後記損害を賠償する義務がある。

二  損害

1  治療費 金六四万一、八二六円

〔証拠略〕を総合すると、原告内藤は本件事故によつて顔面挫創、両眼部挫創、頸部挫創等の傷害を受け、ただちに前記馬淵病院に入院し、同年八月一八日まで一八日間入院治療を受け、その間付添看護を必要とし、同月一八日豊橋市光生会病院に転入院し、同年一〇月一〇日まで五四日間同病院に入院し、その後同年一二月三一日まで同病院に通院し(実日数一七日)、同日治療を打切つたが、顔面に多数の創痕を残し、左肩痛、頭痛、頭重感が断続する後遺症(いずれも特に著るしいものではない。)を残し、前記治療期間の総治療費は金六四万一、八二六円(馬淵病院分一五万五、九三〇円、光生会病院分金四八万五、八九六円)であることが認められる。

2  付添看護費 金一万八、〇〇〇円

前記要付添期間および〔証拠略〕によれば、甲号事件兼松と同様の理由により、原告内藤には付添看護費として金一万八、〇〇〇円の損害が認められる。

3  入院雑費 金一万八、〇〇〇円

本件事故当時、入院患者が石けん、チリ紙、タオル等の入院雑費として一日あたり金二五〇円を要したことは公知の事実であるから、前記入院日数合計七二日間に原告内藤は金一万八、〇〇〇円の損害を蒙つたこととなる。

4  休業損害 金一〇八万九、八七九円

〔証拠略〕によれば原告は本件事故当時、税理士として税務事務所を経営しその規模は事務員一〇人、得意先三〇〇軒位の程度で、実際の仕事は記録代行事務とか税務署の立会で右事務は一月から三月がもつとも忙しく他の事務員は税理士の資格がないため原告内藤が主として得意先回りをするが、勤続年数の長い者は原告内藤の事実上の代行をすることがある。原告内藤の年収は昭和四三年が金七四九万一、二一五円昭和四四年が七八〇万〇、七八四円、昭和四五年九六三万二、四七四円、昭和四六年一、一六二万五、三八二円であつて年収では、本件事故による収入減は必らずしも明白ではないが、これは一部他の事務員が肩代りし、一部は原告内藤が退院後に、入院中に滞つた事務を非常な努力で消化したことによるものであることが認められ、その割合(原告の努力で損害が回復された部分)は必らずしも明確ではないが、以上認定の諸事情を考慮すると原告の昭和四六年の収入を基礎とした場合、その月額の三割程度と解され、前記入通院期間によれば、休業期間は事故時から二・五ケ月は全休で、その後の昭和四六年一二月三一日までの二・五ケ月は半休とするのが相当であるから、従つて原告内藤の休業損害は金一〇八万九、八七九円となる。

1162万5882÷12×0.8×(2.5+2.5÷2)=108万9879

5  慰藉料 金四五万円

前記事故の態様(但し後記過失相殺の点を除く)、原告内藤の受傷の部位、程度、後遺症の部位、程度等諸般の事情を考慮すると原告内藤が本件事故によつて蒙つた精神的苦痛を慰謝するには金四五万円が相当である。

6  車両修理費等 金三九万五、三〇〇円

〔証拠略〕によれば本件第二車両は原告内藤の所有するものであるところ、原告内藤は本件事故現場から第二車両を引き上げるための牽引費用に金二万六、〇〇〇円、第二車両の修理費として金三六万九、三〇〇円を要したことが認められ、右額は原告内藤の蒙つた損害である。

7  過失相殺および損害の填補

以上の損害金合計は金二六一万三、〇〇五円となるところ、原告内藤は乙号事件訴外小嶋の雇用主で訴外小嶋は原告内藤の事業執行中に、かつ原告内藤を同乗させている時に本件事故を惹起したものでその密接な関係からみて原告内藤は乙号事件訴外小嶋と共に、被害者側として信義則上訴外小嶋の過失を原告内藤の損害額決定につき斟酌すべきであるから、訴外小嶋の過失割合分三割五分を減殺すると金一六九万八、四五三円となる。自賠責保険金五〇万円が支払われていることは原告内藤の自認するところであるから、右額をさらに控除すると残額は金一一九万八、四五三円となる。

(甲号事件、乙号事件共通)

よつて甲号事件については甲号事件原告兼松の請求のうち、甲号事件被告らに対し各自金八万一、一二二円および内金七万三、一二二円に対する本件事故発生の日である昭和四六年八月一日から内金八、〇〇〇円に対する本判決言渡の日の翌日から各支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は失当であるからこれを棄却し、甲号事件原告山崎の請求のうち、甲号事件被告らに対し各自金六四万七、三二八円および内金五八万七、三二八円に対する前同様の昭和四六年八月一日から、内金六万円に対する本判決言渡の日の翌日から各支払済に至るまで前同様の年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は失当であるからこれを棄却し、甲号事件原告名倉の請求のうち、甲号事件被告らに対し各自金四一万四、八六〇円および内金三七万四、八六〇円に対する前同様の昭和四六年八月一日から、内金四万円に対する本判決言渡の日の翌日から各支払済に至るまで前同様の年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は失当であるからこれを棄却し、乙号事件については乙号事件原告の請求のうち乙号事件被告に対し金一一九万八、四五三円および右金員に対する前同様の昭和四六年八月一日から支払済に至るまで前同様の年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容しその余の請求は失当であるからこれを棄却し、甲、乙号両事件につき訴訟費用については民事訴訟法八九条、九二条本文(甲号事件については九三条一項本文をも)参加費用については同法九四条、九二条但書、仮執行の宣言については同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 安原浩)

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